ふーむ。と白波百合は家にやっとの事で辿り着きそのまま布団に倒れ込む。
淡い匂いが頭の周りでフヨフヨ浮いている気がして何だか眠たくなった。
まさかこんなに顔が浮腫むとは・・・と思いつつ昨日のことを思い出す。
いつもの休憩室の帰り道、珍しく先輩と一緒になった。
「どっか飯でも食いに行くか?」
そう言われて思わずハイと答えた。
別に断る理由なんて無かったし別に良いのだけれど。
何だか緊張した。
ふーむ・・・と白波は寝返りを打ち天井を見上げる。丸い蛍光灯の創る柔らかなグラデーションは部屋の隅へと広がっている。
まさかこんなに仲良くなれるとは思わなかった。それでも・・・と思う。
我ながらどうしてこんなに世話を焼いてくれるのだろうとも疑問に思う。
そしてそう考える度に不安になる。
もし・・・いつか自分が何かをやらかして・・・というよりやらかしてはいるのだけど、
掌を返したようにこの休憩室の時間が途絶えてしまう。
楽しい幸せな日々とは同時に不安や焦燥もまた運んでくる。
人に好かれようとするとそれだけ何もかもが億劫になる。
現状維持が全ての目的になってしまって、自分の目的がどこかに霧散してしまいそうになる。
考えすぎもダメっすね・・・・
そう思いながら先輩のいつも手にする黒猫のマグカップが、ぼんやりと視線の端っこに浮かび上がる。
随分大切にしているんすよね・・・あんなに古くなってもまだ・・・
先輩の指導者ってどういう人だったんすかね。すごい女性だったとは聞いているっすけど。
進藤さんや先輩の言葉の切れ端が徐々に形になって来ている。
でもそれはきっと根掘り葉掘り聞く話でも無いようだからもどかしい。
なんか自分らしく無いっすねぇ・・・と白波は口をへの字に曲げる。
幸せな日々に没入出来ればどんなに幸せなことか。
そう思いながら白波はいつかの先輩の右手から伝わる温もりを思い出した。
その温もりだけはまだ温度を失っても自分の中に色濃く燻っている。
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